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20.cDNAライブラリー作成法(横溝岳彦)

19. cDNAライブラリー作成法(中村元直)が大変良くできているため、消すに忍びないので、それにつけ加えるTipsという形で形で新しいマニュアルを書きます。念頭に置いているのは、いわゆるPlaque hybridizationでクローニングするためのphage libraryです。

 

1)mRNAの調製について

使用するmRNAの質がlibraryの出来を左右することはいうまでもないことです。RNase freeの環境で作業をする事が最も重要です。器具はできるだけ乾熱滅菌し、極力ディスポーザブルのチューブを使うこと。水も、少量で済む場合にはkitについているDEPC処理水を使う方がいいでしょう。

現在第二生化で行われているmRNAの抽出は

a) Cs-TFA method(Pharmacia RNA extraction kit 27-9270-01)+oligotex-dT super(Roch Japan)

b) Pharmacia QuickPrep micro mRNA purification kit (27-9255-01)

の二つです。前者はTotal RNAを抽出したあと、mRNAを更に精製するやり方で、最も信頼がおけます。後者は細胞や組織からdirectにmRNAを抽出するため、手間はかかりませんが、a)に比べてRNaseの混入は多いように思われます。いずれの方法にしても、mRNAにしてからcDNAを合成するまでの時間は短い方が望ましく、私は宵越しのmRNAは使わない(mRNAをとった直後にcDNA合成を行う)方針にしてからは失敗がなくなりました。細胞からのmRNA抽出であれば、b)でも大丈夫な様ですが、RNaseの多い臓器(肝臓、腎臓)からはa)の方が安心です。

共に、kitについているプロトコール通りでおおむね大丈夫ですが、最初のHomogenateを作った段階で、18Gの注射針を10-20回通してゲノムを切断しておくと、粘調なgenomic DNAによるビーズ操作の難しさが減少します。

また、mRNAを取り終わったあとでその一部を電気泳動して、長いmRNAがとれていることを必ず確認すること。(変性ゲルがいいのですが、面倒なので、TAEの1% agaroseでもある程度のことはわかります。200ngを70℃で10分denature, rapid coolして電気泳動します)6kb位までスメアしていればまずまずと思われます。

 

2)Reverse Transcriptase(RT)について

1st strand cDNAの合成に使うRTは、数種類あります。これまで主に使われてきたのはMMLV-RTで、現在でも通常のRT-PCR程度の実験には十分です。しかし、少しでも長いinsertの入ったライブラリーを作りたい場合や、5' RACEを行う場合は、MMLV-RTのRNase-H活性を欠失させたRT(BRL, Superscript-II, またはStratagene, Stratascript-RT)を使った方が伸びはいいようです。この場合、反応温度を45℃まであげることができます。私が使っているプロトコールは

37℃ 30分 その後 45℃ 60分

で、6kbまでは問題なく伸びてくれます。

 

3)Double strand cDNAのbluntingについて

Double strand cDNAを合成した後に、adaptorをblunt-end ligationする場合には、 cDNAのbluntingが必要で、kitではT4 DNA polymeraseまたはKlenow fragment(DNA polymerase Iのlarge fragment)を使うことが多いようです。

気を付けなければならないことは、cDNA合成に用いたDNA polymerase Iは二つのsubunit (large, small)から成っていて、small fragmentには5'-exonuclease活性があるということです。このままbluntingを行うと、5'側が削られたcDNAができてしまうことがあります。従って、blunting前に熱処理をして、DNA polymerase Iを失活させたあとに、T4 DNA polymeraseまたはKlenow fragmentを加えてbluntingを行うことが大切です。

 

4)Size fractionationについて

Adaptorを付けたdouble strand cDNAを目的のvector(plasmid vectorやphage vector)にligationする前に, size-fractionationすることが必要です。Freeのadaptorや、短いcDNAはvectorに入りやすく、これを行わないと空のcDNAばかりが入ったライブラリができてしまいます。各kitにはいろいろなカラムが入っていますが、通常よほどうまくやらないと一回のゲル濾過では、短いものが完全に抜けないことが多いように思います。収率とのかねあいになりますが、できればゲル濾過二回もしくは、ゲル濾過+アガロースゲルからの切り出しといった組み合わせを考えた方がいいようです。ゲルからの切り出しの場合、混入したagaroseがligationを阻害しますから、これも十分に抜いておく必要があります。(Phe/Chl+Chl/Isoamylalcoholなどで)

 

5)Vectorへのligationについて

このステップが最も失敗しやすい所です。失敗する原因は、

a)vectorとinsertのモル比が不適切

b)Na塩、Phenolやエタノールの持ち込み

などが多いようです。a)に関して、adaptorがきちんとついているcDNAの量を正確に知ることはできませんから、insertの量をふることでしか対処できません。b)に関しては、ligationの前にvectorとcDNAを一本のチューブでエタ沈(塩は終濃度2.5M のNH4oAcを使う。Na塩は使わない)した後、70%EtOHで洗って、室温で10分放置後、5ないし10μlの系でligationします(16℃, overnight)。PEGの入ったligation kit (Takara ligation kitなど)は、その後のPackagingを阻害するのでPhage vectorに入れるときには使わない方が無難です。

 

6)Libraryのチェックについて

Platingの際に青白のselectionを行うことは当然ですが、白が多くてもまだ喜べません。最低10個はinsertを切り出すなり、PCRを用いるなりして、insertの長さを調べましょう。目的とする分子の長さにもよりますが、最低でも平均1.2kb位はないと、これからの時間が無駄になりかねません。